革の原料である生の動物の皮は、時間が経つと腐ってしまいます。
この皮の腐食を防ぐための処理のことを鞣し(なめし)といいます。
今回は、革づくりの原点ともいえる鞣しについて詳しく解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
鞣しとは
通常、皮は時間が経つと乾燥による硬化が進み、やがては腐って廃棄するしかないものになってしまいます。
鞣しには、このような革の乾燥による硬化と腐食を防ぐ目的があり、皮の主成分であるタンパク質やコラーゲン分子を化学的に結合させて、皮の内部構造を安定化させるための様々な処理が施されます。
「皮」は、この鞣しを行うことで耐久性や保存性に優れる「革」となり、我々の生活には欠かすことのできない貴重な素材へと生まれ変わっているのです。
鞣しの歴史
人類が鞣しを初めて行ったのは、打製石器を使って動物を狩るような生活を送っていた新石器時代頃と推定されています。
当時は十分な暖房器具がなかったため、寒さから身を守るために毛革が重宝されていました。
ただ、毛皮はすぐに腐食が進んでしまうという欠点があり、保管が困難なうえに繊細であるが故、すぐに使えなくなってしまうという問題が存在していました。
人類はこの問題を解決すべく、毛皮をより扱いやすくするために身近にある様々な道具などを用いて腐食を食い止める方法を探るようになります。
その結果、皮を湿度の高い場所に放置したのち、動物の糞尿などを使って脱毛したあと、木の棒や動物の骨で皮を叩いて皮を柔らかくする方法を編み出しました。
これが人類が行った鞣しの原点となります。
こうして人間は試行錯誤を繰り返しながら、より効率的で効果的な鞣しを確立していきました。
鞣しの工程
ここからは鞣しの基本的な流れをご紹介していきます。
鞣しの工程には主に下記のような7つの工程があります。
- 水漬け
- 脱毛
- 鞣し
- 染色
- 加脂
- 乾燥
- 仕上げ
水漬け
革製品は動物の皮を剥いだ原皮とよばれるものが原材料となります。
この原皮は、国内外のさまざまな屠畜場から鞣しを行うタンナーに輸送されています。
海外から輸入される原皮は、輸送中に腐らないように塩を含ませて水分量を減らした状態にしてタンナーに届けられています。
この塩や血液などがこびりついた原皮を清潔な状態にするために、水に浸して生皮の状態に戻す工程を水漬けといいます。
この時、余分な肉片を大きな機械を用いて取り除く作業を裏打ちといいます。
脱毛
皮をさらに加工しやすくするために、皮を石灰液と硫化ナトリウムに浸して繊維をほぐし、全体を柔らかくします。
石灰液を皮を浸すことで毛穴が膨張して脱毛が促され、皮に柔軟性を与えることができます。
ソフトレザーのような柔軟性に特化した革を作る場合には、再度石灰液に浸すこともある一方、硬い革を作る場合には石灰液を使わずに脱毛を行うこともあります。
脱毛を終えた皮は分割されたのち、皮に付着した石灰やコラーゲン以外のたんぱく質をアンモニウム塩を使って除去する脱灰と呼ばれる工程が施されます。
鞣し
鞣し剤が浸透しやすいように酵解と侵酸を終えた皮をピックル皮と呼びます。
この皮に鞣し剤と呼ばれる薬品を浸透させ、内部繊維の結合を強くして皮に耐熱性と耐久性を与えます。
鞣しの種類には下記のようなものがあり、どの鞣しを行うかによって革の特性も大きく変わります。
- クロム鞣し
- 植物タンニン鞣し
- コンビネーション鞣し
また、各種用途に適した革を作るために再鞣しを行うこともあります。
鞣しを終えた革は、内部に含まれた水分を機械で絞り出したのち、適当な厚さにシェービングマシンによってカットされます。
カットされた革はその状態や品質によって等級が付けられます。
染色
染色は、染料を使う方法以外にも、スプレーやハケを使った塗装による染色や機械によるプリントなどの方法が存在します。
また、染色には革全体を染める「芯通し」と、表面だけを染色する「表面染色」があり、どちらの染色をするかによって革の風合いが大きく変わります。
加脂
乾燥して硬くなった革に生油や合成油脂を加えて、揉んで柔らかくする工程を加脂といいます。
乾燥
仕上げを行う前に皮を自然乾燥させます。
乾燥は革の手触りを調整するための大切な工程になります。
仕上げ
仕上げでは、塗装による艶出しや型押しなどの加工が施されます。
この仕上げの工程を終えれば鞣しは完了となります。
さまざまな鞣し製法
鞣しの種類は、大きく3つに分類することができます。
- クロム鞣し
- 植物タンニン鞣し
- コンビネーション鞣し
それぞれ原皮は同じでも、どの鞣しを行うかによって性質の異なる革が生まれます。
クロム鞣し
クロム鞣しは塩基性硫酸クロムと呼ばれる化学薬品を使った鞣し製法のことで、現代において主流の鞣し製法となります。
クロム鞣しの特徴は、鞣し時間が短く工程の管理がしやすいという経済性にあります。
さらに革に柔軟性・耐熱性・弾力性・抗張性などの様々な特性を与えることができるため、より保存性に優れた革を作ることができます。
クロム鞣しは、1884年から実用化された比較的歴史の浅い製法でありながら、大量生産・大量消費が重要視された20世紀から21世紀にかけて大きく需要が高まり、現在市場に流通している革製品の約8割以上がこのクロム鞣しを施した革となっています。
植物タンニン鞣し
植物タンニン鞣しは、最も歴史が古い鞣し製法で、自然界に生育する植物の樹皮から採取したタンニンが鞣し剤に使用されています。
皮を濃度の薄いタンニン液から濃度の濃いタンニン液に時間をかけて浸していくという伝統的な製法は、他の製法に比べて約2倍から4倍の時間と費用がかかることでも知られています。
そのため大量生産が困難というデメリットがある一方、革本来の表情や香りはもちろん、エイジングによる美しい色艶の変化を楽しめるというメリットがあります。
天然素材のみを使うこの製法は環境に負担がなく、天然素材ならではの表情が楽しめるとあって世界中のレザーファンに愛されている鞣し製法となっています。
コンビネーション鞣し
クロム鞣しと植物タンニン鞣しの両方を行うコンビネーション鞣しは、2つの製法が持つメリットをさらに生かしながら、デメリットを補うことのできるという利点を持っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は鞣しの工程と主な鞣し製法をご紹介しました。
鞣しの工程や製法によって、革の特徴は大きく異なります。
この違いを知っておくことは革製品を選ぶ際の基準となり、その革製品の品質や特性を理解するのに役立ちます。