革製品の原料になっている動物の皮は、そのままの状態しておくと、やがては腐敗して、硬化していきます。

そんな生の皮を、様々な方法を使って製品に使えるような素材に変化させる作業を“鞣し”(なめし)といいます。

この記事では、そんな鞣しについて詳しく解説していきます。

鞣しとは?

鞣し(なめし)とは、動物から採れた皮が、乾燥によって硬化したり、湿度によって腐敗してしまうのを防ぐために施される作業のこと。

鞣しの工程には、数十もの処理や作業が存在しており、これらの作業を通して、皮内部の構造を化学的に安定化させ、長期保管が利くような素材に変えていくのです。

動物から採取された「皮」は、鞣しを経て「革」となり、耐久性や保存性に優れた、革製品用の素材に生まれ変わります。

また、鞣しを行う業者のことを“タンナー”と呼びます。

新石器時代に誕生した!?

人類が鞣しを覚えたのは、打製石器を駆使した狩猟生活を送っていたとされる、新石器時代あたりと推測されています。

現代のような暖房器具がなかった時代、人々は厳しい寒さを凌ぐため、動物から剥ぎ取った生の毛革を使っていました。

ただ、毛皮は劣化が進みやすいという欠点があり、長期保管がまったく利かず、すぐに腐敗して、使えなくなってしまいます。

当時の人々は、上記のような課題を抱えるようになると、毛皮をより扱いやすくするために、あらゆる道具を用いて、毛皮の腐敗を止める方法を探るようになります。

その結果、生の皮を高湿度状態の場所にしばらく置いたのち、動物の糞尿に浸して脱毛をしたり、動物の骨や棒で直接皮を叩き、繊維を解すなどの作業を編み出しました。

こうして、人類はさまざまな試行錯誤を何世紀にもわたって繰り返しながら、現代のような鞣しを確立させていきました。

鞣し剤の種類

主な鞣し剤の種類には、以下のようなものがあります。

  • クロム鞣し(クロム)
  • タンニン鞣し(タンニン)
  • コンビネーション鞣し(合成鞣し剤)

それぞれ原皮は同じでも、どの鞣しを行うかによって性質の異なる革が生まれます。

また、特殊なものには、油鞣しと呼ばれるものがあります。

クロム鞣し

鉱物を使った鞣しのことで、クロム塩を鞣し剤として使用する。

耐熱性・柔軟性・発色性に優れる。

また、作業効率がとても高く、現代の鞣しの主流になっている。

タンニン鞣し

ケブラチョ・ミモザ・チェストナットなどの植物に含まれる、植物性タンニンを使った鞣しのこと。

コンビネーション鞣し

混合鞣しとも呼ばれ、クロム鞣しとタンニン鞣しを掛け合わせたものなど、複数の鞣し剤を併用する製法のこと。

いくつかの特性を与えることができるため、市場からの要望に沿った革づくりがしやすいため、近年はその重要性が高まっている。

油鞣し

アルデヒドを含む鞣し剤を使用する、複合鞣しのこと。

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鞣しの工程

鞣しには、鞣す前の“準備”から、鞣したあとの“仕上げ”まで、複数の工程が存在します。

また、これらの工程は、皮革の種類、土地、環境、こだわりによって、数に違いがあることも特徴です。

準備工程

水漬け

革製品の原料となる“原皮”は、国内外の屠畜場から輸送されてきます。

とくに海外からの原皮は、輸送中に腐敗が進まないように、大量の塩に漬け込み、乾燥させて水分をあらかじめ抜かれた状態にされています。

上記のような原皮に付着している塩、血液などの頑固な汚れを落とし、最後に水分を補い、清潔な生皮の状態に戻していきます。

裏打ち

裏打機(フレッシングマシン)と呼ばれる特殊な機械を用いて、余分な脂肪と肉片を除去します。

石灰漬け

清潔になった皮を、石灰乳に浸漬させます。

石灰乳に革を浸すことで、液中に含まれる強アルカリ性の効果によって毛穴が膨らみ、毛が抜けやすくなります。

また、石灰漬けをすることにより、柔軟性を与えることができます。

分割

分割機(スプリッティング)を使って、決められた厚さに皮を銀面と床側の二層に分割します。

垢だし

石灰漬けで除去しきれなかった毛根を取り除くなどして、銀面の見栄えを整えます。

再石灰漬け

さらに素材を柔らかくする必要がある場合には、石灰乳に再度浸します。

脱灰

石灰漬けによって付着した石灰を丁寧に取り除きます。

上記によって、鞣し剤を浸透しやすくさせることができるようになります。

酵解

酵解(ベーチング)をすることにより、不要なたんぱく質を除去して、表面を滑らかにします。

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鞣し工程

浸酸

さらに均一に鞣し剤が浸透するように、酸性溶液に皮を浸しておきます。

クロム鞣し

クロム鞣しを施して、耐熱性と耐久性を与える。

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水絞り

余分な水分を機械を使って、絞り出します。

裏削り

シェービングマシンという機械を使い、適当な厚さに調整します。

その状態と品質によって、等級が付けられます。

再鞣

使用目的に合わせた素材にするため、各鞣し剤を用いて、独自の特性を与える。

染色・加脂工程

中和

アルカリを使い中和させ、染料が均等に浸透するようにしておきます。

染色

染料を使って、色を染めていきます。

加脂

精製された生油と合成油脂を含ませて、柔軟性を与えます。

水絞り

サミングと呼ばれる専用の機械を使って、余分な水分を抜き、全体を伸ばします。

仕上げ工程

乾燥

仕上げを行う前に、自然乾燥または熱乾燥をさせて、染料を定着させておきます。

味入れ

水分を適度に含ませて、柔軟性を与えます。

ステーキング

ステーキングマシンと呼ばれる機械を使って、皮をほぐし、柔軟性と弾力性を与えます。

乾燥

皮を平らな状態にして、水分を抜いて乾燥させます。

仕上げ

価値のない縁の裁断をはじめ、銀面を塗装、艶出し、アイロン、型押しなどを行う。

計量

最終的な革の面積を計り、価格を付ける。

取引の単位は、“デシ”と呼ばれ、10cm×10cmが1デシとして計算されます。

ただ、上記の単位は日本独自のものとなっており、その他の国々では“スクエアフィート”という単位がよく使われています。

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まとめ 

いかがでしたでしょうか?

鞣しの種類を知れば、革製品の品質や特徴を判断するのにとても役立ちます。

また、アレルギーを持っている方は、鞣し剤に何が使われているかを確認することが大切です。

革製品の大切な原材料。原皮について解説。