数ある鞣し製法のなかで、もっとも歴史が古い、植物タンニン鞣し。
この記事は、そんな植物タンニン鞣しの特徴と歴史について解説します。
植物タンニン鞣しとは?
植物タンニン鞣しとは、自然界のあらゆる植物の幹や樹皮などから採取できる、植物性のタンニンを鞣し剤の主成分として利用した鞣し製法のこと。
材料
植物タンニン鞣しの鞣し剤の主成分である植物タンニンは、維管束のある高等植物から、維管束のない下等植物に至るまで、ほとんどの植物に含まれています。
ただ、その含有量は、部位や状態によって違いがあるとされています。
植物タンニンが持っている最大の効果は、たんぱく質を凝固、固定させること。
この効果こそが、植物タンニン鞣し革の大きな特徴である、耐久性の高さに大きな影響を与えています。
製法
植物タンニン鞣しは、やや厚みのある牛革などを鞣すのに適した製法となっています。
その製法は、ゆっくりと時間をかけて、大量の鞣し剤を浸透させていくことが主流であり、摩擦による傷のない美しい革にするため、原皮を巨大なタンニン槽(ピット槽)に浸しながら鞣し作業が行われています。
ピット槽は、タンニンの濃度の違いによって、いくつかに分けられている槽のこと。
かつては、地面に穴を掘り、そこに槽を埋め込むことが主流だったそうですが、現在は地上に槽を並べ、濃度の薄い槽から、徐々に濃度の濃い槽に移しながら原皮を漬け込んでいくのが主流となっています。
ただ、衛生管理上、手間がかなりかかるため、経験豊富な職人にしか行うことのできない作業となります。
上記のように、植物タンニン鞣しには、数か月という時間と手間、さらには広大な土地が必要となり、現代においては希少になりつつある、伝統的な鞣し製法となっています。
歴史
自然の恵みを利用したこの製法は、“世界最古の鞣し製法”であり、人類が生活に皮というものを取り入れはじめた、古代エジプト時代から存在していたとされています。
ただ、現代のように本格的に皮革の鞣しに植物タンニンが使われ始めたのは、産業革命時代のイギリス。
当時、植物タンニン鞣しの鞣し剤には、オーク材から採取される植物タンニンが使われることがほとんどでした。
しかしながら、オーク材の植物タンニンは濃度が低いため、鞣しにかなりの時間がかかってしまうことから、生産効率をより高くするという課題がありました。
そんな課題を解決しようと、イギリスの研究者は理想的な植物タンニンを探し求めて、世界中を探し始めるようになります。
その結果、オーク材以外にも、じつはいろいろな植物に植物タンニンが含まれていることが判明。
以降、あらゆる植物の植物タンニンを使った鞣し剤の開発が進められました。
植物タンニン鞣し革について
特徴
植物タンニン鞣し革には、以下のような特徴があります。
- 茶褐色をしており、経年変化が楽しめる
- 堅牢度が高く、摩擦に強い
- やや伸びにくい
- 可塑性が大きく、成形性がよい
- やや重い
- 耐熱性にやや劣る
植物タンニン鞣し革の最大の特徴は、経年変化が楽しめること。
そのほかには、鞣し剤によるたんぱく質を結合させる効果によって、総合的な耐久性が高いのも嬉しい特徴といえます。
また、自然由来の鞣し剤が使われているため、将来的に土に還るなど、環境負担の少ない素材として、近年注目されています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
現在主流となっている、クロム鞣し製法に比べて、植物タンニン鞣しは比較にならないほどの時間と手間がかかる、“とても効率が悪い鞣し製法”です。
しかしながら、ゆっくりと時間と愛情を与えられて鞣された植物タンニン革は、ほかの革にはない、天然素材ならではの自然的な表情と、使い込むことによって生まれる美しい経年変化といった、沢山の魅力を持っていることを忘れてはいけません。
本物の革好きがいう“革”。
あなたもぜひ植物タンニン鞣し革を使ってみてはいかがでしょうか。