改刷をする度に話題となるのが、紙幣の肖像について。
栄えある肖像に選ばれる人物は、いったいどのようにして決められているのか。
この記事では、そんな紙幣の肖像の選択基準に加えて、これまでに肖像となった人物の経歴と功績をご紹介します。
どのように肖像は決められている?
新紙幣を発行する際に世間から注目されるのが、肖像となる人物について。
紙幣の肖像と図柄については、財務省・日本銀行・国立印刷局の三者が協議を重ねたのち、その時の財務大臣が決断を下すことになっています。
上記のような流れは、日本銀行法によって決められていますが、気になるのはどのような人物がどのようにして肖像に選ばれているのかという点でしょう。
- 国民によく認知されている。
- よく知られた業績がある。
- 相応しい品格を持っている。
- 綺麗で精密な写真が残っている。
調べてみたところ、明確な基準と制約こそないものの、上記のような“おおよその基準”というものがありました。
また、これらのおおまかな基準があることから、近代の紙幣には、明治から昭和時代に生きた人物がよく採用されています。
架空の人物が選ばれたことも・・
過去に肖像となった人物を見てみると、架空上の人物が選ばれたことがあります。
それは、大和時代に活躍したとされる架空上の英雄、武内宿禰。
さらに驚くことに、七福神の大黒天も大正時代から昭和時代にかけて使用されていた紙幣に肖像として描かれています。
過去の紙幣にみる肖像
伊藤博文
江戸時代から明治時代にかけて活躍した政治家。
山口県の貧しい農家に生まれるも、討幕派の武士として活躍を収めたのち、イギリス留学を経て、政府の官僚となる。
日本国(日本帝国)の初代内閣総理大臣となってからは、激動の時代の渦中にあった日本の近代化に力を注ぎました。
千円札
- 発行開始日・・・昭和38年11月1日
- 発行開始日・・・昭和51年7月1日
- 発行停止日・・・昭和61年1月4日
板垣退助
自由民権運動の主導者であり、伊藤内閣の内務大臣を務めた人物。
戊辰戦争で司令官として活躍するも、薩摩・長州藩がより強大な権力を握ることに危機意識を持ち、国民の政治参加を求めた自由民権運動を主導しました。
名言に「板垣死すとも自由は死せず」。
百円札
- 発行開始日・・・昭和28年12月1日
- 発行停止日・・・昭和49年8月1日
岩倉具視
江戸時代から明治時代にかけて活躍した貴族のひとり。
身分の低い公家の家に生まれたのち、天皇の身の回りの世話をする立場に出世する。
その政治的手腕が認められると、大政奉還などの大改革を推し進め、のちには新政府設立の立役者となりました。
また、岩倉使節団の一員として欧米にも渡り、日本鉄道を設立しました。
五百円札
- 発行開始日・・・昭和26年4月2日
- 発行開始日・・・昭和44年11月1日
- 発行停止日・・・昭和46年1月4日
- 発行停止日・・・平成6年4月1日
聖徳太子
飛鳥時代を代表する皇族。
飛鳥時代の推古天皇の皇太子となり、政治・外交・宗教の普及を行いました。
幼少期からとても明敏であったといわれ、有名な逸話のひとつに、“同時に十人の話を聞けた”という有名な話があります。
また、紙幣の歴史を振り返ると、聖徳太子は複数の紙幣の肖像に採用されています。
壱万円札
- 発行開始日・・・昭和33年12月1日
- 発行停止日・・・昭和61年1月4日
五千円札
- 発行開始日・・・昭和32年10月1日
- 発行停止日・・・昭和61年1月14日
千円札
- 発行開始日・・・昭和25年1月7日
- 発行停止日・・・昭和40年1月4日
百円札
- 発行開始日・・・昭和21年2月25日
- 発行停止日・・・昭和31年6月5日
高橋是清
明治時代から昭和時代にかけての政治家。
仙台藩の命によってアメリカに留学するものの、奴隷として売られたという特殊な経験を持つ。
日本銀行に入行後、日銀副総裁・日銀総裁を歴任しました。
五十円札
- 発行開始日・・・昭和26年12月1日
- 発行停止日・・・昭和33年10月1日
夏目漱石
明治時代の近代作家。
代表的著書に『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『こころ』などがある。
千円札
- 発行開始日・・・昭和59年11月1日
- 発行開始日・・・平成2年11月1日
- 発行開始日・・・平成5年12月1日
- 発行開始日・・・平成12年4月3日
- 発行停止日・・・平成19年4月2日
新渡戸稲造
明治時代から昭和時代にかけての教育者。
世界の安寧を叶えるために、国際連盟の事務局次長になる。
日本の精神論を平明に記した『武士道』は、現在も評価を受けている。
五千円札
- 発行開始日・・・昭和59年11月1日
- 発行開始日・・・平成5年12月1日
- 発行停止日・・・平成19年4月2日
二宮尊徳
江戸時代の農政家。
沢山の薪を背負った状態で読書をしながら歩く「二宮金次郎像」でよく知られる。
裕福な家庭に育ったが、病弱だった父の代わりとなるためによく働いたといわれています。
また、江戸時代の末期には、経済と道徳の両立と説いた「報徳思想」を人々に唱えました。
壱円札
- 発行開始日・・・昭和21年3月19日
- 発行停止日・・・昭和33年10月1日
野口英世
伝染病の研究において、大きな功績を残した医学者。
農業一家に生まれるが手に傷を負ってしまい、農家になることを諦めて、手術を受ける。
手術時に医療の偉大さを目の当たりにしたことで、医学者になることを決意。
世界各国を医学者として渡り歩き、とくに中南米を中心に難病とされていた黄熱病の研究に尽力しました。
千円札
- 発行開始日・・・平成16年11月1日
- 発行開始日・・・平成23年7月19日
- 発行開始日・・・平成31年3月18日
樋口一葉
明治時代にかけて活躍した、近代文学史に残る、国内初の女性作家。
家計を助けるために若くして本を書きはじめ、『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』などの名作を世に送り出しました。
五千円札
- 発行開始日・・・平成16年11月1日
- 発行開始日・・・平成26年5月12日
福沢諭吉
慶応義塾大学の創立者。
豊富な海外経験を著書にまとめ、西洋の思想を伝えました。
名著に『学問のすすめ』。
壱万円札
- 発行開始日・・・昭和59年11月1日
- 発行開始日・・・平成5年12月1日
- 発行開始日・・・平成16年11月1日
- 発行停止日・・・平成19年4月2日
- 発行開始日・・・平成23年7月19日
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事でご紹介したすべての紙幣は、現時点では実際に使うことができます。
※百円札(聖徳太子の肖像があるもの)については、表面の中央部にある「百圓」の文字の下にある赤色の標識がなく、裏面の模様が赤色になっているものは、すでに失効しています。
紙幣の肖像となった人物を知れば、より紙幣を使う楽しさを味わうことができるかもしれません。
リンク:国立印刷局