動物の「皮」は、鞣し(なめし)という加工によって、「革」という素材へと生まれ変わります。

ひとくちに「革」と言っても、どのような成分を使ってなめすかによって正反対とも言えるくらい異なる性質をもつことをご存知ですか?

それぞれの性質をきちんと理解して革製品を選ばなければ、高いお金を払って買ったのに後で後悔することにもなってしまいます。

今回は、PART2の「部位に注目した革製品の選び方」に続いて、「なめし剤」の観点から革製品の選び方をわかりやすくご説明していこうと思います。

この機会にぜひ違いをきちんと理解して、革製品選びの参考にしてみてください。

目次

①クロム?タンニン?そもそも「なめし」とは何なのか。なめし剤の種類と効果について

  • 「丈夫さ」を求める場合はどちらでなめされた革を選べばよいか
  • 「軽さ」を求める場合はどちらでなめされた革を選べばばよいか
  • 「経年変化」を求める場合はどちらでなめされた革を選べば良いか
  • 「お手入れの楽さ」を求める場合はどちらでなめされた革を選べば良いか

②sotで採用している革、12種類のなめし剤をすべて公開します

クロム?タンニン?そもそも「なめし」とは何なのか。なめし剤の種類と効果について

生の「皮」はそのままにしておくと、カチカチに硬くなったり、腐ったりしてしまいます。

そうなることを防ぎながら、素材として使えるようにするのが「革を柔らかくする」と書く「鞣し(なめし)」の工程です。

この鞣しに使われる成分で有名なものとして、樹木由来の「タンニン」があります。

緑茶やワイン、コーヒーにも含まれるこの成分。名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

しかしこれ以外にも、世界中のなめし材の約8割を占めると言われる「クロム」や、一円玉の素材である「アルミニウム」。

さらにはレアメタルの一種である「ジルコニウム」、ホルマリン漬けで知られる「ホルムアルデヒド」など、数多くの鞣し剤が存在します。

これらの成分を「皮」に浸透させることで繊維同士がその成分を介して結びつき「革」になる、というのが基本的な作用になります。

そして、結びついた結果としてどのような特徴を持つのかは1つ1つ異なります。

しかし、あなたが普段使っている財布やバッグに使われている鞣し剤の99%は、実は2種類に絞られるんです。

その2つが「クロム」と「タンニン」。

sotの革も、全ての革がこのなめし剤のどちらか、または両方を使っています。


(ひじきやあさり、豚ロースにも含まれるクロム)

そのため今回は、この2つの成分に絞って、それぞれでなめした革の違いをご説明していきます。

この2つの全く異なる特徴を、メカニズムから理解しておけば、革選びで失敗する確率はぐっと減るはずです。

※ここでの比較は、他の条件を全て同じにしたときの比較です。鞣し方染め方や仕上げ方を変えることで、性質も変わるのでご注意ください。

「丈夫さ」を求める場合はどちらを選べばよいか?

金属成分の「クロム」と、樹木から取れる天然成分「タンニン」。

これらの成分でなめされた革は、他の条件はすべて同じと仮定すると、どちらが丈夫になると思いますか?

実はこの2つのなめし剤の性質は大まかに、ポリエステルやナイロンなどの「合成繊維」からつくられる生地と、綿や麻などの「植物繊維」からつくられる生地にそれぞれ対応するんです。


(コットン/ポリエステル)

クロム鞣し→合成繊維(ナイロン、ポリエステル…)
タンニン鞣し→植物繊維(リネン、コットン…)

となると、どちらの鞣しの方が丈夫になるかはもうお分かりですね。

本格的なアウトドアアウターにも使われるのは合成繊維のナイロンやポリエステルなので、より丈夫に仕上がるのは「クロム鞣し」の革です。

タンニン鞣しの方がなんとなく丈夫なイメージを持っていた方も多いのではないでしょうか。

この誤解は、タンニン鞣しの革の方が厚く使われることが多く、ハリも強く仕上がることも影響しているかもしれません。

しかし、実はクロム鞣しの方が、薄く仕立てても何倍も丈夫になるんです。

これは、2つの成分と革の繊維との結びつき方によります。

その違いを簡単なイメージ図と一緒に見ていきましょう。

まずはタンニン鞣し。

こちらは植物繊維に対応するので、「綿の糸」で革の繊維同士を結びつけるようなイメージで、革の繊維を結び付けます。

そしてクロム鞣し。

クロムは、金属元素なので「金属を混ぜ込んだ強靭な糸」で革の繊維同士を結びつけるようなイメージ。

そして、この結びつき(配位結合)が非常に強力なんです。

化学的な結合力の強さを比較すると、タンニンの結合(水素結合)に比べてなんと約10倍の強さになるんです。

それが革自体の耐久性の違いにも現れてくるため、クロム鞣しの方がタンニン鞣しよりも丈夫な革に仕上がる、というわけです。

そのため、何よりもとにかく丈夫な革製品がほしいという方は、タンニン鞣しよりもクロム鞣しの革を選ぶと良いと思います。

しかし、あくまで耐久性という1点のみで比較すると劣るというだけで、タンニンで鞣した革もすぐ破れたりすることはないのでご安心を。

しっかりとタンニンでなめされた革は、お手入れ次第で5年、10年とご使用いただけます。


(タンニン鞣しのブリーフバッグの使用例)

「軽さ」を求める場合はどちらを選べばばよいか?

続いては、革の重さについて。

その違いを理解するために、革の繊維となめし剤が結合するイメージ図をもう一度見てみましょう。

クロム↓

タンニン↓

クロムの方は、繊維と繊維の間に「隙間」がありますが、タンニンの方は隙間が埋まっていますよね。

このようにタンニンは、繊維と結合しながらその隙間を埋める作用(難しい言葉で「充填効果(じゅうてんこうか)」)があるんです。

考えてみてください。

ものがたくさん詰まっている箱と、スカスカで隙間の多い箱、どちらが軽いですか?

これと同じで、クロムを使ってなめした革の方が軽量に仕上がるんです。

しかし逆に、タンニンでなめした革はずっしりとした「重厚感」があると言えます。

人それぞれ感覚は違いますが、あまりに軽いと安っぽいと感じることもあるかもしれません。

そのため、とにかく軽くて持ち運びやすい革が良いという方はクロム鞣しの革を、ある程度重さが感じられて所有感を感じられる方が良いという方はタンニンなめしを選ぶと良いと思います。

革らしい「経年変化」を求める場合はどちらを選べば良いか?

「革は使っていると味が出る」

そういうイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか?

しかし、この「味が出る」というのは、実は全体の20%以下の革に限定されるんです。

その20%以下の革とは、タンニン鞣しの革のこと。

現在、世界中で作られている革の80%以上がクロム鞣しのものと言われていますので、タンニン鞣しの革は20%以下になります。

味のある革製品と聞いて思い浮かぶ、あのアンティーク家具のような深い艶は、実はタンニンの作用によるものなんです。


(タンニン鞣しのブッテーロレザーキーケース

そのため、革に経年変化を求める方はぜひ、タンニンでなめされた革を使った製品を選んでみてください。

使い込むほど味が出るような経年変化を楽しみたいのにクロム鞣しの革を選んでしまうと、「全然変化しなくてガッカリ」ということになってしまいます。

では、そもそもなぜタンニンで鞣した革は使いこむほどに変化していくのでしょうか。

まずは艶の変化。

結論から言うと、タンニンが繊維と結合した革は、難しい言葉「可塑性(かそせい)」という性質が強くなることがツヤの要因になります。

この性質は簡単にいえば「粘土のように、形を変えようと力を加えるとそのままの形になる性質」のこと。

使うたびに手で触れる革製品は、触れるたびに平にならそうとする力「摩擦」が、表面に加わることになります。

すると少しずつ表面が平らにならされていきます。

そうしてツルツルになった表面は光を反射するようになり、それがツヤとなって現れてくるということです。

「オイルが染み出して表面をコーティングするため艶が出る」ということも言われますが、これは正確ではありません。

もしそうであれば、オイルを入れたクロム鞣しの革も艶やかに変化するはずだからです。

もちろん、革をつくる際に染み込ませたワックス分や、手の皮脂に含まれるワックス成分が、使っていくうちに表面を覆うこともツヤの要因ではありますが、タンニン鞣しの革に特有なのはあくまで「可塑性(かそせい)」です。

オイルが表面を覆うとツヤが出ると聞いて、クリームなどをたくさん入れてしまうと革にとってよくありません。

艶が出るどころか逆に表情は湿ったように曇り、ハリ・コシはなくなってふやふやになってしまうので注意が必要です。

自然な艶を出すためにはクリームを入れるより、ブラッシングや乾拭きで表面に摩擦をかけてあげるとよいです。

摩擦がかかることで、可塑性が働いて徐々に自然なツヤが出てくるので、ぜひ試してみてください。

それではツヤの変化に続いて、「色」の変化について見ていこうと思います。

色の変化の原因は一言でいうと「酸化」になります。

革に染み込ませたタンニンは、空気や紫外線と反応して酸化しやすいという性質をもっています。

ここでの酸化は簡単に、「化学的に反応して成分の形が変わること」くらいに捉えておいて大丈夫です。

そもそも物の色とは、物の表面の成分に当たったときに特定の色の光だけを跳ね返して、その跳ね返った光が私たちの目に届くことで認識されています。


(簡単なイメージ)

タンニン鞣しの革は、その表面にあるタンニンが酸化によって成分の形を変えるため、それによって跳ね返す光の色も変わるということです。

この性質は、スパッと切った木の丸太をイメージするとわかりやすいです。

木はタンニンを含むため、空気に触れていない内側はきれいなベージュ色ですが、外側は色が変化して茶色になっていますよね。

これと同じことがタンニンでなめした革にも言えるということです。

また、この変化のスピードや色合いは、なめすときに使うタンニンの種類によって変わってきます。

そのため、変化が比較的ゆるやかな革もあれば、劇的に変わる革もあったり、赤みがかって変化していく革もあれば、黄みがかって変化していく革もあります。

さらに、革をつくるときには乾燥しないようにオイルやワックスを入れますが、この成分も酸化していくので、色の変化の仕方は、その革に固有の特徴になるんです。

また、液体を含んだ布の色が、乾いているときよりも濃く見えるように、使っていくうちに手に含まれる皮脂が染み込むことも色の変化の要因の一つになります。

「お手入れの楽さ」を求める場合はどちらを選べば良いか?

「革製品にはお手入れが必要」というイメージがあると思います。

そのお手入れの作業も革を楽しむことの一つという方もいると思いますが、一方で、面倒だからやりたくないという方もいるのではないでしょうか。

ここでは、そんな「お手入れ」の観点からクロムとタンニンの革を比較していきます。

耐久性についてのご説明の中で、タンニン鞣しの革は「植物繊維」の生地に、そしてクロム鞣しの革は「合成繊維」の生地に対応するとお話しました。

ここでも、そのイメージでとらえると特徴がわかりやすくなります。

コットンなどから作られる生地より、ポリエステルやナイロンで作られた生地の方がシワや汚れがつきにくく、洗濯しても早く乾きますよね。

これと似ていて、クロム鞣しの革はシワになりにくく(これは可塑性が小さいため)、さらには繊維の中に水が染み込みにくいので汚れがつきにくくなります。


(クロム鞣しの革SHED

一方でタンニン鞣しの革は、綿の生地と似ていて、繊維が水分を吸いやすいので、汗や雨などの汚れも吸いやすくなります。

この対比からわかるように、クロムの方がお手入れ自体は楽な革質になります。

しかし、それと引き換えに、クロムの革の質感は少し無機質な印象を持たれるかもしれません。

タンニンの方がクロムよりも素朴でナチュラルな質感が楽しめるのが良いところですね。


(タンニン鞣しの革HANDWASH

結局、お手入れの楽さ重視の方はクロム鞣しを、自然な表情やお手入れも楽しみたい方はタンニン鞣しを選ぶと良いと思います。

今回ご紹介した4つのポイントを参考に、ぜひ自分に最適な革製品を見つけてみてください。

sotの革に使っているなめし剤をすべて公開します

最後に、sotで取扱いのある革に使われているなめし剤を、まとめてご紹介します。

ぜひ製品選びの参考にしてみてください。

1. pueblo(プエブロ)
→タンニン鞣し(イタリア)
>プエブロの詳しい説明はこちら

2. minerva box(ミネルバボックス)
→タンニン鞣し(イタリア)
>ミネルバボックスの詳しい説明はこちら

3. buttero(ブッテーロ)
→タンニン鞣し(イタリア)
>ブッテーロの詳しい説明はこちら

4. eleganza(エレガンザ)
→クロム鞣し+タンニン鞣し(日本・姫路)
>エレガンザの詳しい説明はこちら

5. handwash(ハンドウォッシュ)
→タンニン鞣し(日本・栃木)
>ハンドウォッシュの詳しい説明はこちら

6. luke(ルーク)
→タンニン鞣し(日本・姫路)
>ルークの詳しい説明はこちら

7. ecomuraless(エコムラレス)
→タンニン鞣し(イタリア)
>エコムラレスの詳しい説明はこちら

8. picket(ピケット)
→タンニン鞣し(日本・姫路)

9. zebu(ゼブ)
→クロム鞣し+タンニン鞣し(日本・姫路)

10. auspice(オースピス)
→タンニン鞣し(日本・姫路)

11. dewy (デューイ)
→タンニン鞣し(日本・姫路)

12. kohaku(コハク)
→タンニン鞣し(日本・姫路)

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