現在、世界中でつくられている革のなんと約80%がクロム鞣しのものだと言われています。
そもそもクロム鞣しとは何なのか、そしてどういう性質があるのか、あなたはご存じですか?
なんとなく「化学的で、良いイメージがない」という方も多いのではないでしょうか。
しかし実はクロムは、あなたが普段口にしている食材の中にも普通に存在しているもの。
そして、革の中で繊維と結びつき、驚くべき性質を与えてくれるんです。
今回は、革製品を選ぶときに知っておくべきクロム鞣しの特徴を、分かりやすくご紹介していきます。
目次
①“あの食材”にも含まれる天然ミネラル。ほとんどの人が知らないクロムの本当の話
②結合力はなんとタンニンの10倍。クロムが生み出す驚きの特徴とは?
・圧倒的な耐久性で長く愛用できる
・汚れが付きにくくお手入れが楽
・綺麗な発色がずっと楽しめる
③クロム鞣しの革をいくつかご紹介
・SHED(シェード)
・ELEGANZA(エレガンザ)
・ZEBU(ゼブ)
“あの食材”にも含まれる天然ミネラル。ほとんどの人が知らないクロムの本当の話
クロムは、原子番号24の重金属。
化学の授業などで一度は聞いたことがあると思います。
重金属と聞くと、「安全なの?」と思われる方もいると思いますが、クロム単体に有毒性はありません。
さらに、鞣しに使われるクロムは、「3価クロム」という形になっているのですが、実はこれは、人の体に必要なミネラルの1つ。
あなたが普段食べているヒジキやあさり、豚ロースなどにも含まれています。
このミネラルが不足すると、糖尿病にもつながるとも言われています。
しかし、「クロム鞣しは環境に良くない」と聞いたことある人もいるのではないでしょうか。
その原因となっているのは、実は3価クロムではなく、6価クロムという形のものなんです。
クロムはこの形になると、毒性を持ち、土壌汚染などの原因にもなってしまいます。
しかし実は、この形はとても不安定なので自然界ではほとんど存在しません。
大気中に出てしまっても、すぐに3価の形への変化が始まり、約16~120時間ごとに半減していくそうです。
(簡易的なイメージ)
鞣された革について言えば、もし仮に紛れ込んでいたとしても、酸性の環境の中で不安定な6価の形からすぐに3価に変わっていきます。
さらには、環境への負荷を数値的に比べると、クロムと、自然的な鞣し剤である「タンニン」との間に、大きい差はないことが明らかになっているそうです。
金属アレルギーの方は稀に反応してしまうこともあるようですが、あなたが普段使っているナイフやフォーク、缶ジュースの缶も金属ですよね。
なので、金属アレルギーをお持ちでなければ、日常にありふれた金属を気にすることがないように、クロム鞣しの革を大げさに気にする必要はありません。
結合力はなんとタンニンの10倍。クロムが生み出す驚きの特徴とは?
あなたが普段食べている牛肉。
その副産物として残る「皮」は、そのままにしておくと、硬くなったり腐ったりしてしまいます。
そこで、クロムをはじめとする特定の成分を浸透させることで、皮が柔らかく保たれ、腐らないように変わっていきます。
これが、「鞣す(なめす)」という加工ですが、クロムを浸透させたとき、皮の内部では何が起こっているのでしょうか。
クロムが「皮」の内部まで浸透すると、クロムと皮のたんぱく質が次々と反応して、結びついていきます。
このときの結びつき(配位結合)が非常に強力。
クロムについで多く使われる鞣し成分「タンニン」の結合(水素結合)と比べると、化学的には10倍ほどの強さがあるんです。
「強力な金属の糸で、隣り合う繊維同士が結びついているような形」をイメージすると、性質がわかりやすくなると思います。
このイメージを元に、クロム鞣しの革について知っておくべき特徴を詳しくご紹介していきます。
圧倒的な耐久性で長く愛用できる
まずは、何と言ってもその耐久性です。
タンニンと比べて約10倍も結びつきが強いことで、革自体の丈夫さも折り紙つきです。
例として、名刺サイズの厚さ1mmくらいの革をイメージしてみて下さい。
この革を、両手の指先でぎゅっとつまみ、破ろうとしてみます。
しかし目いっぱい力を入れても、全く破れることはありません。少し伸びるくらいです。
これは隣り合う繊維同士が、クロムという頑丈な”糸”で強く結びついているから。
クロムでしっかり鞣された革は、それほど丈夫になるんです。
そんなクロム鞣しの革で仕立てられた革は、強い負荷のかかる製品には最適です。
例えば、革靴。
革靴は、革という平面的な素材に対して強い力を掛けることで、立体的な形に成形していきます。
さらに歩くときには、足の甲の動きに合わせて何度も折り曲げられることになります。
それらの負荷に耐えられるくらいの丈夫さが要求されるため、素材としてはクロム鞣しの革が最適なんです。
いわゆる高級靴に使われる、アノネイ、デュプイ、ワインハイマーのカーフレザー(日本でいうキップ)は、すべてクロム鞣しが採用されています。
汚れが付きにくくお手入れが楽
生地に例えると、タンニンでなめした革は天然繊維で、クロムでなめした革は化学繊維のイメージ。
天然繊維はコットンやリネンなどの天然の原料、化学繊維はポリエステルやナイロンなどの人口の原料からつくられる繊維のことです。
(綿/ポリエステル)
コットンより、ポリエステルやナイロンからつくられる生地の方が丈夫ですよね。
これが、先程説明したタンニン鞣しとクロム鞣しの丈夫さに対応しています。
さらにクロム鞣しの革は、その耐久性に加えて、繊維自体が水分を吸いにくいという特徴も、化学繊維と似ているんです。
水分を吸いにくいということは、汗などの水汚れを弾いてくれるということです。
そのため、ちょっとした雨や、空気中の不純物を含んだ水分を寄せつけにくく、汚れがつきにくいんです。
そんなお手入れが楽なところも、クロム鞣しの革の魅力です。
綺麗な発色がずっと楽しめる
続いては、その発色の良さです。
まずは、革の中でのクロムの働きを思い出してみましょう。
クロムは繊維同士を”糸”でつなぎます。
そのため、繊維と繊維の間には多くの「すき間」があるんです。
染色の際、革に染料を染み込ませると、このすき間に染料がたくさん入り込んでいきます。
繊維のすき間を埋めるタンニンと比べて、クロムの結合は革内部のすき間が大きく、染料がたくさん入ることができるため、きれいに発色してくれるんです。
また、革の繊維と結びついたクロムは、タンニンとは異なり、色が濃くなっていくことはほとんどないので、その発色をずっと維持してくれます。
そのため、革製品に対して、最初の気に入った色合いのままがいいと思う方は、クロム鞣しの革を選ぶと良いと思います。
軽量で持ち歩きやすい
また、”糸”で結びついたすき間の多い構造なので、とても軽く仕上がるのも魅力です。
例えば、段ボールを想像してみると、中にすき間が多い構造だと大きいものでもとっても軽いことがわかると思います。
それと同じイメージです。
そのため、バッグやリュックなどの、強さと軽さの両立が要求される製品にもよく使われます。
とにかく持ち物を軽くしたいときには、クロム鞣しのものを選ぶのも良い選択だと思います。
ただ、注意して頂きたいのは、革の重さを決めるのは鞣しだけではないということです。
軽くてふわふわのバスタオルが、水に濡れるとずっしりと重くなるように、オイルなどを大量に入れた革は、クロム鞣しでも重くなります。
なので、軽さを求める方は、オイルレザーは避けた方が良いと思います。
クロム鞣しの革をいくつかご紹介
最後に、sotで扱っているクロム鞣しの革をいくつかご紹介します。
SHED(シェード)
(色展開:ネイビー/ブラック)
国産牛の皮をクロム鞣しで仕上げた革。
表面には上品な型押しをして、傷が目立ちにくい表情に仕立てられています。
ナノテクノロジーを使って革の内部まで撥水成分を浸透させているため、革本来の表情を楽しみながら、多少の雨も気にせずにお使いいただける素材です。
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ELEGANZA(エレガンザ)
(色展開:ワイン/ブラウン/ブラック)
こちらはクロム鞣しの後にタンニン鞣しを行う「混合鞣し」の革。
クロム由来の圧倒的な耐久性を持ちながら、タンニンに特有のエイジングも楽しめます。
オイルをたっぷり含んだしっとり感と、深く落ち着いた色合いが、持つ人を上品に引き立ててくれる素材です。
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ZEBU(ゼブ)
(色展開:キャメル/ダークブラウン/ブラック)
こちらもクロム鞣しの後にタンニン鞣しを行う「混合鞣し」の革。
全体に入った細かいシボ感とクロムによる耐久性によって、傷を気にせずガシガシお使いいただけます。
また、タンニンによるエイジングも楽しめるので、傷や汚れも1つの味として、魅力的な表情に育っていく過程を楽しめる素材です。
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実店舗でもご覧いただけますので、機会がありましたらぜひご覧ください。