素晴らしい耐久性を持つ革製品。

その丈夫さに支えられて、使うほどに柔らかく馴染みながら、美しい経年変化も見せてくれます。

しかし、あなたも無意識のうちにやってしまっている使い方や行動によって、その寿命を大きく縮めてしまっていることをご存じですか?

今回は、そんな危険な行動を、対策方法とあわせて3つご紹介します。

革製品を使うときには、ぜひご参考にしてください。

カードや小銭、荷物など、物をパンパンに詰め込んでいませんか?

風船のように膨れ上がって、ホックが閉じ切らないお財布。

そんな状態で使っている人を、一度は見たことがあるのではないでしょうか?

そのまま使い続けてしまうと、どんなに良い革を使っていたとしても、そのお財布は本来の寿命よりもずっと早くダメになってしまいます。

そもそも一般的な革製品は、革を糸で縫うことで製品として仕上げられています。

この「縫う」ということをよく考えてみましょう。

実はこれは、細かい間隔で革に針で穴を開け、「切り取り線」を入れたような状態になっているんです。

もちろん革は紙よりもはるかに丈夫で厚みもあるので、通常の使い方の範囲内であれば問題ありません。

しかし過度に負荷をかけてしまうと、この縫い目という切り取り線から革は破れてしまいます。

それを防ぐためには、「推奨容量を守って使うこと」が重要です。

より具体的には、

・1つのカードスリットに無理に2枚以上カードを入れない。
・小銭を取り出すときに、過度にマチを広げない。
・パンパンになった状態でファスナーを無理やり閉じない。
・バッグの形が変形するほどものを入れない。

などです。

どうしても整理ができず、いつも物でパンパンにしてしまうという方は、素材としての耐久性が高い革を選んでみてください。

具体的には、「クロムなめし」や「混合なめし(クロム+タンニン)」の革です。

クロムはタンニンに比べて、化学的に約10倍の強さで革と結びつきます(詳しくはこちら)。

そのため、革自体の丈夫さもタンニンのみで鞣した革よりも、クロムのみや、クロムとタンニンの両方で鞣した革の方が高くなります。

また、牛の年齢によっても耐久性は変わります。

例えば、子供の牛の革(カーフ)よりも、年齢を重ねた大人の牛の革(カウ、ステア)の方が、革の層が厚くなるため丈夫です。

※耐久性を判断できるその他のポイントはこちらで詳しく解説しています。

素材以外の点で言えば、できるだけ縫い目の少ない製品を選ぶのも手です。

そもそも切り取り線がなければ、乾燥や過度な負荷で破損することも少なくなるからです。

毎回お手入れで革にクリームを塗っていませんか?

「過ぎたるは及ばざるが如し」

とは、論語由来の表現です。

この表現は、孔子が「度が過ぎた弟子」と「やや不足した弟子」のどちらが優れているかを尋ねられ、

「どちらも同じくらい(良くないこと)だ」

と答えたことから来ています。

これはクリームでのお手入れにも同じことが言えます。

「お手入れ」と言えば、革製品にクリームを塗るというイメージをもっている方も多いと思います。

しかし丁寧につくられた革は、その製造工程の中で、適度な水分としっかりと油分が繊維の奥まで行き届いているので、そう簡単には乾燥しません。

そのため、基本的には「その状態を維持する」お手入れが最適なお手入れなんです。

頻繁に革にクリームを入れてしまうと、革が水分・油分過多になってしまいます。

そうなると、表情は湿ったように沈み、自然なつやが出なくなってしまいます。

さらに、クリームは「水分」「ろう分」「油分」を主に構成されています(革のクリームについてはこちらで詳しくご説明しています)。

何度もクリームを塗ってロウが積み重なると、革の表面はコーティングされた状態になります。

こうなると後からクリームを入れても繊維の奥には入っていかなくなってしまいます。

そのため、実はクリームを頻繁に入れる必要はないんです。

それよりも「出来立ての革の最適な状態を維持する」という点において、もっと重要なお手入れが「ブラッシング」です。

というのも、生活の道具として使う中で、空気中に舞った砂や埃が革製品全体に付着してしまうからです。

革靴や革のバッグは特にそうですが、この見えない敵をそのままにしてしまうと、どんどんと水分や油分を吸われてしまい、乾燥につながってしまいます。

革は、乾燥することで強度が著しく低下します。

そのため、革製品を丈夫に使い続ける上で、ブラッシングは最も重要と言っても良いお手入れなんです。

雨に濡れるなどのイレギュラーな場合は別として、ぜひクリームでのお手入れをブラッシングに置き換えてみてください。

質の良い革を使っていればきっと、革の自然なツヤが浮かび上がってくるはずです。

※砂や埃を落とすためのブラッシングに使うブラシには、馬毛ブラシや、ヤギ毛ブラシがおすすめです。毛質が柔らかいので、優しくブラッシングできます。
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全ての革製品を同じタイミングで、同じようにお手入れしていませんか?

どれも革を使ったものだから、と同じタイミングで同じようにお手入れするのも、実は革にとってよくないことがあります。

例として、革靴と革財布を考えてみましょう。

革靴はもちろん靴なので、外を歩くための道具です。

そのため、地面から舞った砂や埃がとても付きやすい製品です。

また、雨に降られれば、傘をさしていても足元は濡れます。

革は砂や埃の付着だけでなく、含んだ水分が蒸発するときにも乾燥します。

そのため、革を乾燥させないために、履いた日には毎日砂や埃を落とすためにブラッシングしたり、雨に濡れれば適切にクリームで油分を補給する必要があります。

一方、革財布は、革靴に比べて砂もつきにくいですし、雨に濡れる心配もほとんどありません。

さらに、頻繁に手に触れるものなので、皮脂によって適度に油分が補給されている状態になります。

そのため、基本的には乾燥の心配は少なくなります。

そんな2つの異なる製品を全く同じようにお手入れするとどうなるでしょう。

革靴に合わせれば、革財布にとっては油分が多すぎて、表情の曇りや型崩れの原因にもなってしまいます。

一方、革財布に合わせれば、革靴にとってはお手入れが少なすぎて、革の破れなどの破損につながりやすくなってしまいます。

つまり、その製品に応じたお手入れをすることが重要なんです。

基本的な考え方としては、本来の適度な水分・油分を維持するための「ブラッシング」がお手入れのメイン。

そして、水に濡れたり、空気が乾燥している時期にはたまにクリームで水分と油分を補給する、くらいのイメージで問題ありません。

その革製品に応じた適切なお手入れで、革製品を長く楽しんでくださいね。