「良い革」とは何か。
あなたはどう考えますか?
これは定義が難しい表現です。
長く使える抜群の耐久性、アンティークの様な経年変化、目を奪う鮮やかな発色。
革には両立できない様々な要素があり、そのブランドが持つ価値観によって「良い革」の定義は変わってきます。
sotは革の自然な表情を生かしながら、お使いいただく中で変化していく革を志向しているため、「タンニン鞣し」をした「染料染め」の革を使うことがほとんど。
そんな中、ヨーロッパのいわゆる「ハイブランド」と呼ばれるブランドが、実は「クロム鞣し」の「顔料染め」を好んで使っていることをご存知ですか?
今回はその理由と、sotが主に使う革との違いをご説明していきます。
こんな勘違いをしていませんか?クロム鞣しとタンニン鞣しの革のどちらが「良い革」なのか
「タンニン鞣しの革の方が、クロム鞣しの革よりも良い革だ」
そう聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
しかし、単純にそうとも言えません。
確かにタンニンは、特有の変化を見せてくれる天然由来の成分であり、なめし剤としてのコストも高価です。
タンニンで鞣すことで革は、空気や紫外線と反応して色を変えながら、手で触れるたびに表面は滑らかな艶を帯びていきます。
しかしクロムには、タンニンに比べて化学的に約10倍もの強さで結合するという、極めて優れた耐久性があります。
つまり、物性としてはクロムの方がはるかに品質が高いんです。
(クロム鞣しの革SHED)
また、クロムの液にじっくりと時間をかけて漬け込む「クロムのピット鞣し」を考えると、大きなドラムの中でタンニンと革をかき混ぜながら短時間で鞣す「タンニンのドラム鞣し」の革よりもコストは高くなります。
しかし、クロム程の強靭さはないとしても、タンニン鞣しの革は、美しい表情の変化を味わうことができる。
つまり、
「変わらない美しさ」に重きを置くなら、クロム鞣しの革、
「変わっていく美しさ」に重きを置くなら、タンニン鞣しの革
が”良い革”と言えます。
多くのメゾンブランドは、抜群の耐久性と、均整のとれた高級感のある表情がいつまでも変わらないことを目指しているために、クロム鞣しの革を好んで使っているんです。
ものづくりの価値観が違うことから、sotが考える”良い革”とは異なりますが、あなた自身がどちらを美しいと感じるかを判断して革製品を選んでみてください。
小見出し質感や表情だけでなく、”美しい色”も最大限楽しめる革製品がほしいとお考えの方へ。
革の色合いに深みを出す染料染めだけが、”美しい革”に染め上げる方法ではありません。
sotの革にメインで使っている「染料染め」は、革の繊維に色(染料)を染み込ませるため、革の表情を生かしながら透明感のある美しい色合いに仕上げることができます。
天然素材である革は、その1枚1枚、部分部分で、繊維の太さ・方向・密度が微妙に異なります。
そのため、同じように染めたとしても、色の入り方が変わったり部分的にムラが出てきます。
それに加えて温度や湿度も影響してくるため、意図する色合いをブレなく完璧に表現することは不可能です。
そして、このムラによって生まれる深さのある表情も、魅力の1つになります。
しかし一方で、ムラなく均一に広がる発色の良い色がお好きな方もいると思います。
そんな方にとっての”綺麗な色”は、「顔料染め」によって表現されます。
顔料染めは、顔を美しく化粧するように、表面に色(顔料)を乗せて染めていきます。
そのため、染料染めほど革の表情を楽しむことはできませんが、均一に広がる鮮やかな色合いを表現することができます。
さらに、革に色を染み込ませるわけではないので、繊維の密度や気温、湿度に色合いが影響されることは少なくなります。
そのため、個体差をわずかな誤差の範囲で抑えながら、デザイナーが狙った色を出すことができます。
また、水分や空気、紫外線に直接触れることもないため、汚れがつきにくく、いつまでもあなたの好きな色合いを楽しむことができるんです。
つまり、
奥行きと透明感があり、使うほど変わる色に重きを置くなら「染料染め」
均一に広がる鮮やかさが、いつまでも続く色に重きを置くなら「顔料染め」
で染められた色が、あなたにとっての”美しい色”になります。
sotは、深い色に変わるタンニン鞣しの革をベースに、天然素材である革のシワやキズも表情として、できるだけ素肌を感じられるような革を好んで使います。
そして個体差も味の1つとして、使うほどに趣を帯びていく色を”美しい色”と考えています。
しかし、先ほどの鞣しの話と同じように、これは各ブランドの価値観によって異なるもので、どちらが良いかはあなた自身の感性によって選択するものです。
多くのメゾンブランドは、デザイナー自身が美しいと思う色を正確に表現しながら、その色をいつまでも維持させることを志向しています。
これは、デザイナーが表現した色合いが、使い手の使い方によってそれぞれの方向に変わっていった時に、第三者から見てそのブランドが考える「美しい色」が違って捉えられるのを嫌っているという部分もあると考えられます。
また、色々な国、地域で販売することを想定しているため、気温、湿度、保管状況に関わらずどの場所でも一定の色を提供することも意識しているはずです。
このような考え方で、多くのメゾンブランドは「クロム鞣し」「顔料染め」の革を使うことが多くなっているんです。
しかし、この組み合わせでつくられる革は、化粧のように、ある程度”すっぴん”のアラをごまかすことができるので、合皮と変わらないような粗悪な革も存在します(メゾンブランドでも)。
そのため、このタイプの革は質がピンキリで、素の表情が出てしまうタンニン鞣し・染料染めの革と比べて、こだわって作られた質の高い革と粗悪な革との区別は困難です。
表面の表情や触った感触からすっぴんの表情を見抜く目を養うか、それが難しいようなら、ブランド自体を信頼して買うしかありません。
そんな事実も頭に入れて、自分の価値観に合う革製品を見つけてみてくださいね。