お手入れ次第で、いつまでも愛用できる革製品。
実はその耐久性は、革がどのようにつくられるか、そしてその革をどのように革製品にするかによって大きく変わってくることをご存じですか?
革製品の寿命は、お手入れに依るところも大きいですが、より長く愛用していくためには、つくられる工程にも注目する必要があります。
今回は、そんな「耐久性」に注目して、5つの重要な着眼点について詳しくご紹介していきます。
ぜひ革製品選びの参考にしてみてください。
※今回、最も多く使われる牛革に絞ってご説明しますが、他の革に関しても基本的に同じことが言えます。
<目次>
- ①子牛か成牛か。革の耐久性の違いは「人」で考えましょう。
- ②クロムかタンニンか。「皮」を「革」に変えるなめし剤、耐久性を重視するなこちらです。
- ③「どのように」なめされた革が最も丈夫に仕上がるのか。
- ④染色ー染めれば染めるほど、革は◯くなります。
- ⑤革の「厚さ」と「耐久性」は比例しません。見るべきポイントとは?
①子牛か成牛か。革の丈夫さの違いは「人」で考えましょう。
食肉の副産物として生まれる動物の皮をリサイクルしてつくられるのが、革という天然素材です。
そんな革の耐久性を決める1つ目の要素が、元々の牛の年齢。
わかりやすいように「人」で考えてみましょう。
赤ちゃんの肌は、きめ細かいですが、その代わり薄くて傷つきやすいですよね。
一方、年齢を重ねて大人になるほど、肌のキメは荒くなりますが、皮膚は厚く強くなっていきます。
これは牛についても言えることで、子牛の革はなめらかな革質になりますが、銀面(ぎんめん:革の表面の層)が薄いため、比較的に耐久性は低くなります。
一方、成牛(大人の牛)の革は、子牛に比べてキメは荒くなりますが、銀面が1.5~2倍くらい厚くなり、繊維自体も太くなるため、耐久性は最も高くなります。
そのため、革の丈夫さで考えたときには、
「カーフ(子牛の革)」よりも「キップ(中牛の革)」
キップよりも「ステア(オス成牛の革)」や「カウ(メス成牛の革)」
を選んでみてください。
ちなみに、sotが使っている革は全て「成牛の革」、つまりカウまたはステアです。
一般的には、原皮の希少性ときめ細かさからカーフが高級品だと言われますが、カウやステアに耐久性でははるかに劣ります。
カウやステアでもきめ細かい革質の良い革もあるので、耐久性を重視する方は注意して選んでみてください。
※年齢による革の違いについて詳しくはこちら
②クロムか、タンニンか。「皮」を「革」に変えるなめし剤、耐久性を重視するならこちらです。
動物の生の「皮」を、素材としての「革」に変えるのが鞣し(なめし)の工程。
なめしでは様々な成分が使われますが、私たちが普段目にする革はほぼ全て、植物由来の「タンニン」か、金属成分の「クロム」のどちらかです。
この2つを比べると、どちらの成分でなめされた革がより丈夫になるのでしょうか。
正解はクロム。
繊維の結合力を比べると、理論的にはタンニンの約10倍もの強さで革の繊維と結びつきます。
そのため、同じ厚さで比較すると、クロムでなめした革の方がはるかに丈夫に仕上がるんです。
しかし、年齢についてご説明した中で「きめ細かさ」が耐久性とトレードオフになっていたように、こちらも「革らしい経年変化」とトレードオフになります。
というのも、革らしい艶や色合いの変化は、タンニンの作用に依るところが大きいからです(詳しくはこちら)。
つまり、それぞれの特徴としては、
タンニンでなめす→革らしいツヤと色の変化
クロムでなめす→タンニンの約10倍強力な結合
となります。
しかし、クロムが強力すぎるだけで、タンニンを使ってもしっかりとなめされていれば5年10年とお使いいただけるのでご安心を。
ですが今回のテーマである「純粋な強度」を重視する場合は、ぜひ「クロム」でなめされた革を選んでみてください。
③「どのように」なめされた革が最も丈夫に仕上がるのか。
クロムやタンニンを使って「どのように」なめすかによっても、革の耐久性は左右されます。
その鞣し方は大きく分けて2つ。
「ドラム鞣し」と「ピット鞣し」です。
バスケットゴールほどの高さのある大きなドラムの中に革と鞣し剤を入れて、ぐるぐると回しながら鞣すのがドラム鞣し。
革の繊維が程よくほぐれて、時間も短縮できるのがメリットです。
一方、地面に掘られた小さなプールのような槽に革を漬け込み、ゆっくりと鞣し剤を浸透させるのがピット鞣し。
特別な設備と手間はかかりますが、繊維の締まった丈夫な革に仕上がります。
つまり、なめし方に関して耐久性を重視するなら「ピット鞣し」の革を選んでみてください。
じっくりと漬け込むことで繊維がほぐれないので、手に馴染む柔らかさはないですが、ハリの強い丈夫な革に仕上がります。
④革の染色ー染めれば染めるほど、革は◯くなります。
革を鞣した後の染色の工程。
この工程でも、革の耐久性は変わってきます。
先に結論を言うと、革は染めれば染めるほど「弱」くなります。
というのも、革の繊維に色(染料)を染み込ませるとき、先ほどのなめしと同じ大きなドラムを使うからです。
革の芯まで色を入れる「芯通し」をしようとすれば、長い時間ドラムの中でぐるぐると革をかき回すことになります。
すると革の繊維がほぐれながら染料が繊維の間に入り込むため、一切染めていない革に比べて耐久性は落ちてしまいます。
しかし、こちらで詳しくご説明していますが、芯通しをすると細かな傷が目立ちにくくなるのがメリット。
これが耐久性とトレードオフになる点になります。
結局、革の染色に関して耐久性を重視する場合は、できるだけドラムを回す時間が短い方法、つまり「顔料染め」または「染料染めの芯通しなし」のものを選んでみてください。
⑤実は、革の「厚さ」と「耐久性」は比例しません。みるべきポイントとは?
「革は厚ければ厚いほど丈夫」
そう考えるのが自然だと思います。
しかし、必ずしもそうとは言えません。
一般的に革は、肌の表面の「銀面」とスエードとして使われるような起毛した「床面」の2層でできています。
この2つの層のうち、繊維が細かく密に絡み合う「銀面」の方が、耐久性が高い層になります。
そしてこの層は牛の年齢によって厚くなっていきますが、最も厚い部位でもほとんどが1.5mm以下です。
そのため1.5mm以上革を厚くしても、それ以下までと比べて、耐久性は向上しません。
革の内部がすべて丈夫な銀面層でできていたとしたら厚くするほど耐久性も上がりますが、1.5mmを境にどんな革も床面に入るので、1.5mm以降はそれまでよりも丈夫にはならなくなるということです。
しかし、同じ革で比べると、厚く使うほど丈夫になることは確かなので、丈夫さを求める場合は革を厚く使った製品を選んでみてください。
また、革は天然素材であるため、細かな傷は避けられません。
そのため、傷の少ないスムースレザーをつくるために銀面の表面を薄く削り、なめらかに整えることがあります。
そうなると当然、銀面の層が薄くなり耐久性は落ちます。
つまり、同じ厚さで比較したときには、銀面の層がより厚い革が耐久性の高い革になります。
そのため、できるだけ銀面が削られていない革を選ぶのもポイントです。
それを判断するときにみるべきポイントは「毛穴」。
人の皮膚と同じように、牛にも毛穴があります。
そのため、革の表面をよーく見たときに、この毛穴がしっかりと残っている場合は、表面が削られていないか、削られていてもほんの少しだと考えて問題ありません。
ぜひ参考にしてみてください。
※「ケシボ」と呼ばれる毛穴の模様の型押しをしている場合もあります。あまりにも均一に毛穴がある場合はこのパターンかもしれません。どうしても気になる場合は、ブランドにケシボの型を押しているかを確認してみてください。
<まとめ>
最後に、耐久性を重視したときの選ぶべき選択肢をまとめます。
カッコの中は、トレードオフになる要素になります。
①原皮:より年齢が高い牛の原皮
(←→きめ細かさ)
②なめし剤:クロム
(←→革らしい変化)
③鞣し方:ピット鞣し
(←→芯のやわらかさ)
④染め方:染料染め(芯通しなし)or顔料染め
(←→傷の目立ちにくさ)
⑤厚さ:銀面がより多く残った厚い革
いくつかの革製品を検討していて、どれにするかを悩んでいるときには、この「素材として使っている革の耐久性」も比較して検討してみてくださいね。