あなたが革靴についてよく聞く話が、説明する人の誇張や理解不足によって間違って伝わっていることをご存知ですか?

今回は、正しく理解しておく必要がある革靴に関する間違いについて、詳しくご説明していこうと思います。

製品選びに失敗しないように、ぜひ理解しておいてくださいね。

  • 目次
    ・よくある間違い①:本革の靴は通気性が高い
    ・よくある間違い②:本革だから合皮の靴よりも快適
    ・よくある間違い③:レザーソールの靴は足がムレにくい

よくある間違い①:本革の靴は通気性が高い

革について何もしらない時に行った革靴の量販店。

木製の四角いテーブルの上に、全く同じデザインに見えるプレーントゥの革靴が2つ並んでいました。

そこであったのが、こんな会話です。


「この2つの靴は見た目がそっくりなんですけど、どうして値段がこんなに違うんですか?」

店員「ああ、これは高い方がエクスクルーシブラインのもので、ヨーロッパの良い本革を使ってるんですよ。リーズナブルなものは合皮なんです」

「そうなんですね。本革の方は何が良いんですか?」

店員「質の高い革で通気性も高いので、合皮よりも快適なんです」


その後、会計を済ませて店を出る時に紙袋に入っていたのは、本革の靴でした。

そして、初めての革靴にウキウキしながら数日履いていると、いつものキャンバススニーカーよりも足に感じる汗が多いような気が…

これは一体どういうことなのでしょうか。

結論から言うと、革は「通気性が高い」どころか「通気性がない」からです。

よく考えてみてください。

密な繊維の集合体である革が、空気を通すと思いますか?

答えはNOです。

正確に言うと、革が待っている性質は通気性ではなく「吸湿性」。

つまり、ある程度の水分を吸い込む性質はありますが、その吸い込んだ湿気・水分をそのまま外側まで通すことはないということです。

でも、通気性がないとしても吸湿性があるのなら、この初めて買った革靴を履いた時にスニーカーよりも汗を吸ってくれなかったのはなぜなのでしょうか。

それは、本革でも汗を吸ってくれるものと吸ってくれないものがあるため。

具体的には、「無染色または染料で染められた革で、樹脂や顔料で表面がコーティングされていない革」のみが、吸湿性を発揮してくれます。

つまり、このときに買った革靴が汗を吸ってくれなかったのは、靴のライニング(内側の革)に顔料や樹脂でコーティングされた革を使っていたためと考えられます。

コーティングされた革を使う理由は、色の再現性が高かったり、元々の皮の傷や汚れをカバーできるため、安い原皮をそれなりに仕上げることもできるからという理由が考えられます。

きちんと吸湿性を発揮するように考えてつくられた靴は、このようなコーティングされた革を使うことはありません。

もっと言うと、靴下への色移りを極力防ぐために、基本的には「タンニン鞣し」で「無染色」の革(いわゆるヌメ革)が使われることが多いです。

タンニンでなめした革は自然な表情の明るいベージュ色になるので、多くの場合は内側を見ると判断できます。


(sotの革靴のライニング。全てタンニンなめしの革を使っています)

自分ではわからない場合は店員さんに聞いてみると良いと思います。

より快適な革靴を選ぶ際はぜひ、ライニングにコーティングされていない革を使っているかを確認してみてくださいね。

よくある間違い②:本革だから合皮の靴よりも快適

合皮の靴の方が、本革の靴よりも快適だなんて信じられますか?

実はそんな状況もあり得るんです。

というのも、本革の靴と言っても、先程ご説明したように内側の革にコーティングした革を使っていたり、さらなるコストカットのために、合皮を使っていたりするものも数多く存在するからです。

そういった革靴は一切汗を吸うことはないので、いつまでも汗が足にまとわりつき、不快な履き心地になってしまいます。

それらの靴と比べると、アッパー(外側の革)に合皮を使っていたとしても、ライニングに無染色の革を使っている靴の方が遥かに快適に履くことができます。

しかも外側の合皮は水分を吸うことはないので、雨や汚れをすべて弾いてくれます。

つまり、逆のパターン(アッパー本革・ライニング合皮)の靴よりも、機能的な靴になります。

また最近では、表面を見ただけでは本革と見分けがつかないような合皮も出てきています。

そのため、そんな質の高い合皮をアッパーに、そして吸湿性の高い本革をライニングに使った靴は、雨の日用のメンテナンスフリーな靴として最適な選択肢の1つになります。

「本革だから良い」「合皮だから悪い」といった先入観にとらわれず、素材としての性質と、それがどこに使われているかを考えて革靴を選んでみてください。

よくある間違い③:レザーソールの靴は足がムレにくい

レザーソールのメリットとして語られる「通気性に優れる」「ムレにくい」というのも、実は間違いです。

レザーソールとは、「地面に接するアウトソールにレザーを使ったもの」です。

つまり、足と直に接することはありません。

ということは、足にかいた汗をアウトソールの革が吸うことはないと、もうわかりますよね。

ムレにくさに関わるのはアウトソールではなく、足の裏に直接触れるインソールです。

背中などに比べて足の裏は、汗を出す「汗腺」の量がなんと5倍以上あるため、先程ご説明したような汗を吸わないタイプの革や合皮をインソールに使ってしまうと、足がムレて大変なことになってしまいます。

そのためムレにくい快適さにこだわる場合は、ぜひインソールに吸湿性の高い革を使っているかを確認してみてくださいね。


最後に補足として、レザーソールの本当のメリットについて考えてみましょう。

レザーソールに使われるのは主に、タンニンでなめされて密度の詰まった厚手の牛革。

質の良い革を使えば、歩くたびに足の動きに応じて折れ曲がる屈曲部のみが解れて、それ以外の部分はしっかりと形を維持してくれます。

そのため、履き込んでいくうちに、ソールがよく曲がって歩きやすい(”返り”が良い)のに、ブレが少ない安定した歩き着心地になっていきます。

一般的なラバーソールの場合は、繊維が解れることはなく、折れ曲がりに対してゴムのように毎回元に戻ってしまうので、レザーソールほど馴染むことはありません。

つまりこの、「履きこむほどに返りがよくなる」というのがメリットの1つです。

そしてもう1つは、見た目のメリット。

レザーソールの靴は、その厚い革の断面を磨いて仕上げるため、ソールからカカトまで、革が積み上がったきれいな層になります。

この、革の繊維が透けて見える透明感のある仕上がりが大きな魅力です。


(sotの革靴のヒール部分)

「美は細部に宿る」という言葉があるように、こだわりのあるブランドは、この目の届きにくいソールの美しさまでこだわっているので、レザーソールの革靴を選ぶ際にはぜひ注目してみてください。

銀座店